担当天使

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『気持ち悪い』 桐生君の声が蘇る。 好き嫌いじゃなくて、生理的に無理だと言われたのだ。 ショックで呆然としたところに、クラスの子たちが現れた。 くすくすと、意地悪く笑った。 桐生君が、みんなを集めていたのだ。 私を笑いものにしたくって。 首吊り自殺というものを、ネットで調べた。 自殺の中では、一番安楽で確実で手軽、だそうだ。 だけど、死んだ後の姿が酷いらしい。 不細工な私には、ぴったりな死に方だろう。 最期だと思って、机の引き出しにしまっていた鏡を取り出した。 恐る恐る、覗き込む。 弱々しい細い眉、一重の細い眼にビン底眼鏡。 低い鼻に、薄い唇。 引き攣った頬。 ボサボサの長い髪。 絶望的な気分になって、鏡を床に投げつけた。 割れた鏡の破片が、きらきらと光った。 父も母も、私の死体を見たら悲しんでくれるだろうか。 …いや、きっと眉を顰めるだけだ。 そして死体処理の人間を事務的に手配するだけ。 桐生君やクラスの子たちも、笑うだけだろう。 清々した、と。 …未練はない。 あとは、意を決して死ぬだけである。 椅子を縄の下に置いた。 神妙な面持ちで椅子の上に立ち、目の前にぶら下がった輪を両手で掴む。 ごくりと唾を飲んだ。 『気持ち悪い』 桐生君の声がもう一度蘇る。 ぎゅっと目を閉じ、輪に頭を通した。 そして、思い切って、椅子を蹴る。 これで全てが、終わる―――…。 身体が浮く筈だった。 なのに、そのまま椅子からジャンプしただけのように、床に着地する。 …縄の端が足元にあった。 切れている。 呆然とすると同時に、馬鹿みたいと思った。 しっかり天井に固定出来ていなかったのだろうか。 輪から頭を抜きながら、天井を見上げた。 「……えっ」 顔を上げたその先――床と天井の間に、見知らぬ人間がいた。 金髪に青い眼、白いワンピースのような服を着た、男。 しかも、しかもそれだけじゃない。 頭には金色に光る輪っか、背中には真っ白な大きい翼。 かつ、浮いている、のである。 「自殺はいかんだろう、自殺は」 男は眉間に皺を寄せていた。 片手でぐしゃぐしゃと柔らかそうな髪を掻き、よく見るともう片方の手には、ハサミが握られていた。 「…あなたが、切ったの、縄」 「当たり前だ。目の前で死なれたら、俺だって自殺したくなっちまう」 「ううん、それよりも、あなた、何、誰!?」 「普通、そっちを先に聞くよな」
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