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実際にディルカは、しきりに私に出掛けるよう勧める。
天使は、担当の人間の傍にしかいられないから、らしい。
外に出ると、おのぼりさんのように、周囲を見渡していた。
恥ずかしいからやめろといったのだが、私以外の人間は、ディルカが見えないらしい。
そんなディルカが、たまに誰もいないところに手を振っていた。
顔見知りの天使でもいるのだろうと、勝手に推測している。
「思うんだが」
「…なに?」
モップを握り締めながら、答えた。
タイルを汚している何かが、もうすぐ綺麗に落ちようとしている。
外で話しかけないで、と言っているのに、ディルカはいつでも話しかけてくる。
向こうはこっちの心が読めるのだから、心の中で答えればいいのだが、つい、口を動かしてしまうのだった。
「なんでこんなバイトしてるんだ。もっといいの、あるだろ」
「人と話さなくていいから」
接客はごめんだった。
色んな人と顔を合わせなくてはいけないから。
工場も嫌だった。
やっぱり、同僚と話さなくてはいけないから。
清掃は、黙々と仕事をこなせば良かった。
汚なかろうが、大変だろうが、それらと比べればマシだった。
ディルカはトイレの窓から、外の様子を眺めていた。
こんな薄暗いビルの中ではなく、外の華やかな世界を歩きたいのだろう。
「あんたの夢さ、俺、知ってんだよね」
「なによ、突然。…っていうか、心の中読むの止めてくれる」
「読んでねぇよ。あんたの17年の観察結果」
私の夢。
モップを動かす手が止まる。
本当に、本当に自分でもくだらない、って思うけど、一つだけあった。
クリスマスに、ネズミーランドに行くこと。
勿論、彼氏と。
別にネズミーランドが好きなわけではない。
幸せなカップルは、そこに行くのだと、脳に刷り込まれているのである。
いいなぁと思った。
好きな人と、二人きりで、ロマンチックなクリスマス。
「クリスマスまであと17日だろ。彼氏作んなくていーのかよ」
「…作れないよ」
だって、不細工だし。
洗面の鏡に映った自分が目に入りそうになって、視線を逸らした。
こんな不細工、誰も相手にしない。
私だって嫌だ。
それに、根暗だし、上手く話せないし、地味だし、服のセンスもない。
こんな女と一緒にクリスマスを過ごしたいとは、誰も思わない。
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