担当天使

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「それは、あんたの努力次第なんじゃねぇの?」 「…努力、って」 「綺麗になろうとしねーとな、一生無理だよ」 「そんなの」 わかってる、という言葉を飲み込んだ。 本当はわかってないのだと思った。 不細工なのは、生まれ持ったものだから、仕方がない。 そう言い訳して、綺麗になる努力なんかしなかった。 化粧なんかしないし、女は愛嬌だって言葉も無視した。 人に対して笑おうとしなかったし、積極的に話し掛けもしなかった。 無愛想な顔をして、俯いていただけである。 顔が不細工なのは、心が不細工だからだ。 だから、人から好かれる筈がないのだ。 「…あんたさ。そんな深刻に悩むほど不細工じゃねぇぜ」 「なにそれ」 「努力すれば、綺麗になれるってこと。やってみないか?」 「え…」 「折角こっちに来てるんだ。担当の人間の幸せを叶えてやってから帰るのも、悪くねぇだろ」 白い歯を見せて、ディルカが振り返った。 ―――ああ、単なる見物ではなかったのだ。 言葉遣いは悪いけど、彼はちゃんと私担当の天使だった。 「そ。俺、向こうでは優等生なんだぜ」 腕を組み、ディルカがウィンクをする。 こういう表情も出来るのだと、素直に感心した。 4.12月16日 己を磨こうとして、一週間。 中身はともかく、外見は前よりはマシになった、気がする。 ビン底眼鏡をやめて、コンタクトにした。 デパートの化粧品売り場に行って、お化粧の仕方を習った。 あまり派手な化粧をして学校には行けないけど、薄くファンデーションを塗ったり、眉を整えたりするようになった。 ガサガサだった唇にリップを塗った。 ガタガタだった爪を磨いた。 美容院に行って、ショートカットにした。 ディルカの見立てで服を買いに行った。 それだけで、随分変わった、気がする。 見た目だけでなく、気持ちも。 なんとなくだけど、自信が持てるようになったのだ。 俯いて歩くことが少なくなった。 教室で息が詰まることもなくなった。 表情を和らげることも出来るようになった。 近所の人にだって、挨拶が出来るようにもなった。 周りには訝しがられたけれど、ディルカは喜んだ。 まるで自分のことのように喜ぶから、本当に驚いた。 「良い調子だな。次は、彼氏、か」 「そっ、それはちょっと、心の準備が…」 「準備もくそもあるか」
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