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ぴしゃりとディルカが言い放つ。
たまにこの天使は、本当に口が悪い。
「桐生…とか言ったっけ。あいつはどうだ?」
「無理、だって、振られたもん」
「…綺麗になったから、見直すかもしれねぇだろ」
「…綺麗になった、かな」
「前よりは」
ディルカは相変わらず、窓の外の景色を眺めながら私と話をした。
外の様子に夢中で、今だって振り返りもしないのだ。
私は引き出しを開けて、鏡を取り出した。
以前は恐る恐る覗いていた鏡も、今ではぱっと見られるようになった。
うん、ディルカの言う通り、前よりはマシだった。
自分に向かって、笑顔を見せる。
ぎこちないけど、悪くは、ない。
「まぁ、見た目で判断する男なんかと、もう付き合う気はないよなぁ」
「うん。ないけど…」
桐生君を、想い浮かべた。
真っ黒な髪が、とても綺麗な男の子だった。
整った顔で、成績優秀で、運動神経も良くって。
兎小屋の掃除をしていたのを見たから好きになったんだけど、桐生君が優しいのは兎相手だけ。
私には少しも優しくしてくれなかった。
一緒に日直になった時、私は嬉しかったけど、桐生君は何もしてくれなかった。
二人っきりになると、どこかへ逃げ出した。
それからあの、告白―――。
「ないけど、やっぱりまだ、ちょっと好き、なのかな」
「最低な野郎なのにな」
「だから…ちゃんと、振られたいかも」
初めての告白が、気持ち悪い、で終わるのは嫌だった。
嫌いでもいいから、言って欲しかった。
誰も間に挟まないで、一対一で、ちゃんと…。
「じゃあ、アレだな」
「…あれ?」
「恋文」
「…言葉古っ…」
「うっせーよ」
振り返り、ギロリとディルカが睨んでくる。
だけど表情は柔らかかった。
私がほんの少しずつだけど前進しているのが嬉しいのだろうと、勝手に思った。
5.12月18日
「なに?」
「…この前の、リベンジ、です」
「はぁ?」
面倒臭そうな口調で、桐生君は答える。
溜め息を吐きながら、がりがりと頭を掻いた。
「断ったじゃん」
「気持ち悪い、って言われただけです」
「それが答えだと思わないの?」
私を馬鹿にしたように―――実際に馬鹿にしているのだろう―――桐生くんが笑う。
綺麗な顔をしているのに…。
綺麗な顔をしているけど、桐生君の心は、汚いと思った。
そんな人を、私は好きだったのだ。
見た目だけを見て。
中身を見もしないで。
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