261人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしまあ、人の世のなんと便利なことか。
その場に居ながらにして、必要な情報は指先一つ動かすだけで手に入る。
そういえば、いつだったか直弥にテレビの仕組みを訊いたことがある。
素直に教えてくれればいいものを、人の社会で罪を犯すと、特殊技術で小さくされてテレビの中で強制労働させられるんだとのたまい、私をテレビ恐怖症にさせた。
あれもなかなか人が悪い。
鬼の私でさえ身が震える嘘を淡々とつく。
一週間ほど経つと、笑いながら本当のテレビの仕組みを教えてくれたが、楽しそうに笑っていたので怒る気力もうせてしまった。惚れた弱みというやつだ。
時計の針を見れば十時半を指しており、テレビでは連続殺傷事件を放送している。
暇を持て余していると、直弥が自室のドアを開けて出てきた。
だが顔色が少々良くない。少なくとも熟睡した者の顔色とは程遠い。
体調が悪いのかと声をかけると
「テスト前だから勉強してたんだけど、思いのほかはかどっちゃって結局徹夜」
「馬鹿者、きちんと睡眠はとらなくちゃだめだ。早く寝たほうがいい」
「ま、そうなんだけど先にちょっと温かい飲み物でも飲もうかと」
台所に立とうとする直弥を制しソファに座らせて、私がお湯を沸かすべくヤカンを手に取る。
まったく、手のかかる旦那様だ。
最初のコメントを投稿しよう!