328人が本棚に入れています
本棚に追加
――なーぉ。
全身真っ黒の毛で覆われた、どこかののらネコ。
しかしながら黒い毛は泥で汚れ、とてもだが全身真っ黒とは形容し難かった。
ネコは一声鳴くと、何かモノ欲しそうな瞳で、馴れ馴れしく俺の足に擦り寄って来る。
俺は、その行動を見て何となく理解した。
恐らく、腹が減っているのだろう。
気まぐれなネコがこうして擦り寄って来る時は、たいてい腹が減った時か、撫でて欲しい時くらいだ。
「……」
たぶん。
つい最近までの俺ならば、至極甘ったるいほどの手厚い歓迎をしたあとに、昨日の残飯をフルコースで与えていたことだろう。
そんな光景が、まるで走馬灯のように極めて鮮明に浮かび上がる。
同時に、虫酸が走る。
馬鹿馬鹿しくて、苦笑すら浮かんでこない。
そもそも、
「…汚い体で寄ってくんなっ」
今は、違う。
偽善に満ち溢れた甘ったるい男でもなければ、血の通わない冷酷非道な男でもない。
俺は、俺だ。
何にも左右されることのない。
俺の生きたいように生きる、ありのままの俺だ…。
最初のコメントを投稿しよう!