88755人が本棚に入れています
本棚に追加
/539ページ
カグヤの思いもかけない発言から時間は経ち、辺りは暗くなっていた。
「マティは帰ったのか?」
「はい」
「そっか……」
カインは自分の定位置である窓際の椅子に深く腰掛ける。
その視線の先――月夜に重ねる姿はいったい誰のものであろうか。
「……ありがとうございます」
そんな彼の背中に謝礼の言葉。
カインは振り返る。
そして、笑みを送る。
「いいよ。カグヤの願い事なんて数えるぐらいしかないし……マティが気に入ったのか?」
カイン自身も気にかけている少女を、カグヤも気持ち同じくしてくれるなら嬉しいのだろう。
しかし、
「いいえ、むしろ逆です、カイン様」
無表情でそう語るカグヤ。
「カイン様に対するあの言葉遣い……許せません」
握り拳を作り、自分の事を棚に上げ熱く語るカグヤに閉口した。
カグヤとカインが出会った頃、彼女の口調はマティとは比べものにならないほど乱暴なものだった。
そんなカグヤがマティを教育すると言っているのだ、カインは黙るより他ない。
だが、マティが両親のことや自分の境遇のことを語っている時、カグヤのマティを見る目が優しかったことを知っているカインはあまり心配はしていない。
最初のコメントを投稿しよう!