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「大地」
呼び掛ければ、
「空」
振り向いて笑ってくれる。あたしと大地の、真っ白な空間。汚れのない、空間。
「今日は何サボってきたんだ」
「物理!」
「…勉強してる?」
「理系と古典以外はね!」
あたしが元気に接すれば彼もまた笑ってくれる。あたしは最近、大地を笑わせることが好きになった。
「ねぇ、何見てるの?」
「…空、とか。街全体」
空、なんて言うから、一瞬びくっとしたけど、大地の視線は青い青い空を向いていたから。それはそれは、輝く瞳で。
「空、好きなの?」
聞いてあたしは即座に後悔した。あたしの心臓が保たない。もう当分、空という単語は口にしないでおこう。
あろう事か、彼はあたしを見て言った。
「好き」
その無邪気な笑顔で。
息が詰まりそうだ。心臓のリズムが、今まで奏でたことのないくらい速く、あたしの呼吸を乱そうとする。
「どうして?」
話題を変えよう、という気持ちとは裏腹に、あたしの好奇心と探求心が目覚めてしまう。
「俺、パイロットになりたい」
「え?」
「それが駄目なら飛行機の設計」
彼の笑顔が一層輝く。幼さを少しちらつかせながら。
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