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「…お前が」
「俺が?」
「…お前の存在が煩わしくなった」
「煩わしくなったなら、むしろ手放すべきだよ」
「………」
あぁ、彼は何も変わっちゃいなかった。不器用に拍車がかかっただけ。何も変わらない。最初からこうしておけばよかったのか、なんておもっても後の祭りで、俺はすでにたくさんの人を巻き込んでしまった。
死なせてしまった。
幼い頃の小さな友人。
俺が馬鹿だったばっかりに、守れたはずの命を無駄にしてしまった。
『しにたくないよ…』
そう言って、胸を真っ赤に染めて、腕の中で息絶えた友人。
申し訳ないことをした。助けたかった。あの時、黒服の腕から逃れられるほどの力を俺が持っていれば、桃みたいに遠距離からでも攻撃できる武器を持っていれば、あの子と仲良くしなければ、出会わなかったら、俺さえ生まれていなければあの子はまだこの世にいたんだろう。
葬儀に出た記憶すらない。
行われたかさえ知らない。
俺は病んだ。
突然変わった葵さんの態度、家からの俺への仕打ち。
自暴自棄になった。
それでも生きていたのは、葵さんの軟禁があってこそのもの。
自殺なんて考えても、すぐに止められた。
なるほど。
「俺は…葵さんが……葵のことは今でも何故か嫌いになれない」
「……」
「たぶん、葵のその隠しきれてない優しさを俺はどこかで感じていたんだと思う」
「…優しさ?」
「葵は不器用だからね」
今も、昔も。
理由は分からない。でも葵は俺のことを守ろうとしてくれていたらしい。せめて命だけでも、守ろうとしてくれていたんだろう。
直感でしかない確信に、俺はすっと背筋を伸ばした。
手を、伸ばした。
「間違っているんだよ」
「……」
「俺が俺じゃなくなったら、死んだも同然だろ?」
命だけ残っても、俺という魂が死んだときは、それは死でしかない。
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