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「寛人」
咎められるように名前を呼ばれた。
背けていた顔を再び彼に向ければ、相変わらずの無表情。さっき見た驚いた顔を見ていただけあって、少しがっかりする。
葵さんが再び、昔のように、笑える日はこないのかな。
この家系に生まれ、憎み嘆きながらも、幸せに笑えていた日々。同じ境遇にあるからこそ、分かりあえていた互いの心。見えない絆で結ばれていると思っていた。絶対に切れない特別なつながりがあるものだと考えていた。
確かに、いまだに切れない縁があるのは確かだが、それは絆なんかじゃない。
「なぜですか」
「なにがだ」
「どうして俺を、ここに繋ぎ止めておきたいんですか」
ずっと不思議だった。
逃げないように、屋敷から出ないように、監禁が徹底されたのは葵さんが当主代理となってからだった。
最初は、葵さんに嫌われたからだと思っていた。
知らないうちに、何かして、葵さんに嫌われたのだと思っていた。
違和感を抱いたのは、何度目かの逃走劇。
無表情に徹していたはずの葵さんの表情が少し、悲しげに見えた時。
あれ?ってなった。
葵さんは俺のこと嫌いなんじゃないの?
その眼差しから、嫌われているなんて、不思議と思えなかった。
なんでだろう。
そんな時思い出したのは、嘘が下手な葵さん。くだらない嘘ついて、俺やサナ、桃にすぐばれて、ふてくされた表情をしていた葵さん。
昔の彼は、誰よりも嘘が下手だった。
だから、聞けば何か分かるかもしれない。
「何故ですか」
見抜けるかも、しれない。
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