第四章

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「寛人」 咎められるように名前を呼ばれた。 背けていた顔を再び彼に向ければ、相変わらずの無表情。さっき見た驚いた顔を見ていただけあって、少しがっかりする。 葵さんが再び、昔のように、笑える日はこないのかな。 この家系に生まれ、憎み嘆きながらも、幸せに笑えていた日々。同じ境遇にあるからこそ、分かりあえていた互いの心。見えない絆で結ばれていると思っていた。絶対に切れない特別なつながりがあるものだと考えていた。 確かに、いまだに切れない縁があるのは確かだが、それは絆なんかじゃない。 「なぜですか」 「なにがだ」 「どうして俺を、ここに繋ぎ止めておきたいんですか」 ずっと不思議だった。 逃げないように、屋敷から出ないように、監禁が徹底されたのは葵さんが当主代理となってからだった。 最初は、葵さんに嫌われたからだと思っていた。 知らないうちに、何かして、葵さんに嫌われたのだと思っていた。 違和感を抱いたのは、何度目かの逃走劇。 無表情に徹していたはずの葵さんの表情が少し、悲しげに見えた時。 あれ?ってなった。 葵さんは俺のこと嫌いなんじゃないの? その眼差しから、嫌われているなんて、不思議と思えなかった。 なんでだろう。 そんな時思い出したのは、嘘が下手な葵さん。くだらない嘘ついて、俺やサナ、桃にすぐばれて、ふてくされた表情をしていた葵さん。 昔の彼は、誰よりも嘘が下手だった。 だから、聞けば何か分かるかもしれない。 「何故ですか」 見抜けるかも、しれない。
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