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幼い俺では気づかなかった。
狭い世界で絶望していた俺では気づかなかった。
あの日、一瞬の隙をついて屋敷から逃げ出した。広い世界へ踏み出し、何も考えちゃいなかったけど、孤独で恐怖心しかなかったけど、その世界で俺を見つけてくれたのは神楽。
俺を、俺自身を生かしてくれたのは他の誰でもなく、神楽坂春斗なのだ。
「俺を生かすきっかけをくれたのは神楽で、俺を受け入れて俺自身を生かしてくれたのはここにいる皆と、学園で待っていてくれている皆なんだよ」
生きるきっかけをくれたのは神楽。
俺のために生きてくれるサナ。
純粋に、凶器じみた愛情をくれたジン。
泣く俺を慰める会長。
虚勢を張る俺を受け止めるカナタ先輩。
無邪気になつく新垣先輩。
優しく見守ってくれる鈴先輩。
裏切ってもなお、守ろうとする大介。
卑怯ながらも俺を欲してくれたアキ。
ありままで接してくれる恭。
最初の居場所をくれた龍聖のみんな。
みんながいたから今の俺がいる。
葵の優しさに気づける俺が…。
「葵さん…いや、葵にぃ」
「っ…」
「俺やっぱひとを憎むのは苦手だ」
いつだって俺の回りには優しいひとばかりで、いつだって不器用な優しさをくれた。人を憎むのは慣れていない。人を嫌いになるのは慣れていない。それが好きだったひとなら尚更。
葵はそれこそ、今の神楽みたいな存在だった。血の繋がりはないけれど、家族以上に大切な存在。葵も、桃も、俺たちには兄のような存在で、だからこそ…。
「俺、あんたを嫌いになれない」
なれなかった。
あんなにも、嫌いになるように仕向けられ、扱われてきたのに。
「嫌いに、なりたくない」
「…なぜ」
「好きだから」
…今、神楽の眉がぴくりと動いた気がした。
こんな状況でやきもちなんか妬いてんじゃねぇぞ。
「…やり直せないのかな」
「………」
「あの頃みたいに、まんま一緒って訳にはいかないだろうけど、俺は」
やり直したい。
また、あの日々を。
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