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「……は?」
なさけない声が無意識に出た。
思わず今までの会話を反芻し、ごちゃごちゃと、ぐちゃぐちゃに声が、言葉が頭の中にぐるぐると回る。
死んだってなにが。
誰が死んだって?
『おい、寛人』
『まだ伝えてねぇからな』
懐かしい声。
最近は滅多に声を聞かなかった。だっておれは隠れていたから。
私情を盾に、怒られるのが恐くて、呆れられて見放されるのが恐くて、見つけられたくないのに見つけてほしくて、そんな矛盾を抱えて。
「死んだって…」
乾いた口から乾いた言葉が溢れ出る。
なんで、どうして、だって大介は何も関係ないのに。ただ同じ学校に通ってて、俺の事情なんか知らなくて、知りたがってたけど、程よい距離感を保ちながらあの頃の俺のそばにいてくれて。
神楽がいないのに、寂しい思いはしたけど楽しかったのはあいつらがいたからだ。
「…ざけんな」
「…聞こえへんよ」
「ふざけるなっ!」
震えた。
「大介はなにも関係ないだろ!あいつはなにも知らなかった!知らないでいてくれて、それでも俺のそばにいてくれて…っ!なんでおまえらはいつもいつも、俺の大事な関係ない人たちを巻き込むんだよ!俺は…!」
俺は…俺が、巻き込んだから…?
はっとして、目頭をおさえる。叫んだせいで酸欠になったからか、くらりとめまいがした。
あぁ、もうなにもかもがうまくいかない。
傷つけたくなくて離れたのに、どうしてこうなったんだろう。
「…へぇ」
「………」
「なんや、なぁ葵。おもろいな」
「無駄口たたくな、桃」
「せやかて、ひぃがこないに怒るとこなんて見るの久々やんけ」
「……寛人」
楽しそうに葵に話しかける桃を無視し、葵が俺に言葉を向ける。
「甘えるな」
「…」
「分かっていたことだろう、お前は災いだ。そばにいる人間が巻き込まれる。だからお前は、あの日から他人と距離をとったんじゃなかったのか。それとも…」
あいつのことはもう、忘れたか?
そう問いかけられて、浮かぶ姿はただひとつ。無邪気に笑う猫っ毛の少年。
友達だった彼は、見せしめに俺の目の前で殺された。向けられた銃口の先に、真っ赤に横たわる身体が荒く息を吐いて、なにもできないまま、連れていかれた。
あぁそうだ。
あいつが一番の犠牲者だった。
よく笑う、猫っ毛の少年。
名前は持たない、使用人。
俺の、最初の友達。
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