第四章

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「……は?」 なさけない声が無意識に出た。 思わず今までの会話を反芻し、ごちゃごちゃと、ぐちゃぐちゃに声が、言葉が頭の中にぐるぐると回る。 死んだってなにが。 誰が死んだって? 『おい、寛人』 『まだ伝えてねぇからな』 懐かしい声。 最近は滅多に声を聞かなかった。だっておれは隠れていたから。 私情を盾に、怒られるのが恐くて、呆れられて見放されるのが恐くて、見つけられたくないのに見つけてほしくて、そんな矛盾を抱えて。 「死んだって…」 乾いた口から乾いた言葉が溢れ出る。 なんで、どうして、だって大介は何も関係ないのに。ただ同じ学校に通ってて、俺の事情なんか知らなくて、知りたがってたけど、程よい距離感を保ちながらあの頃の俺のそばにいてくれて。 神楽がいないのに、寂しい思いはしたけど楽しかったのはあいつらがいたからだ。 「…ざけんな」 「…聞こえへんよ」 「ふざけるなっ!」 震えた。 「大介はなにも関係ないだろ!あいつはなにも知らなかった!知らないでいてくれて、それでも俺のそばにいてくれて…っ!なんでおまえらはいつもいつも、俺の大事な関係ない人たちを巻き込むんだよ!俺は…!」 俺は…俺が、巻き込んだから…? はっとして、目頭をおさえる。叫んだせいで酸欠になったからか、くらりとめまいがした。 あぁ、もうなにもかもがうまくいかない。 傷つけたくなくて離れたのに、どうしてこうなったんだろう。 「…へぇ」 「………」 「なんや、なぁ葵。おもろいな」 「無駄口たたくな、桃」 「せやかて、ひぃがこないに怒るとこなんて見るの久々やんけ」 「……寛人」 楽しそうに葵に話しかける桃を無視し、葵が俺に言葉を向ける。 「甘えるな」 「…」 「分かっていたことだろう、お前は災いだ。そばにいる人間が巻き込まれる。だからお前は、あの日から他人と距離をとったんじゃなかったのか。それとも…」 あいつのことはもう、忘れたか? そう問いかけられて、浮かぶ姿はただひとつ。無邪気に笑う猫っ毛の少年。 友達だった彼は、見せしめに俺の目の前で殺された。向けられた銃口の先に、真っ赤に横たわる身体が荒く息を吐いて、なにもできないまま、連れていかれた。 あぁそうだ。 あいつが一番の犠牲者だった。 よく笑う、猫っ毛の少年。 名前は持たない、使用人。 俺の、最初の友達。
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