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『ぐすっ…うぅー…』
あの頃の俺は、がらりと豹変したまわりの環境についていけず、泣いてばかりだった。
連れてこられた離れは、今までいた自室とは違って薄暗く、そして何もない。必要なものは必要なときに使用人が持ってくる。必要だと判断するのは俺ではなく、当主または上の人たちだったから本当に生きるのに必要なものしか手には入らなかった。
シンプルな和室。
窓には鉄格子がつけられていて、入り口はひとつだけ。見張りは常にいるわけではないが、自由に出入りが許されるなんて、そんなわけもなく。
最後に誰かと口をきいたのはいつだっただろう。確かサナが一週間前にここに忍び込んで今は仕置き中のはずだ。
サナ、大丈夫かな…。
心配で心が苦しくなる。
屋敷の変化に戸惑っているのは何も俺だけではない。サナもわけが分からないそうだ。あおにぃがいきなり冷たくなったのも、桃が屋敷に全然顔を出さなくなったのも。
『っ……』
こんな状況になってはじめて、昔の自分がどんなに幸せだったか気づく。なにもなくダラダラ畳に寝転がった日も、みんなで食べたご飯も、笑ってじゃれあっていたことも、すべての毎日が今では輝いて見えた。
それが今じゃ、毎日が苦しい。
苦しくて、寂しくて、悲しくて、もうわけわかんなくて、死にたいと願う日々が毎日続く。
これはなにかの罰なのか。
俺が何をしたというのか。
あおにぃや桃はもう俺のこと嫌いなのかなぁ…。
答えがない問いを、ぐずりながらうずくまる。そんなことしかできなかった。そんなことしかすることがなかった。
そんなとき、トントンと戸を叩く音が聞こえた。
やっと正午か。
定期的な使用人の訪問だけが時間を知らせてくれる毎日。
『し、しつれいします…!』
ただいつもと違ったのは、使用人が口をきいて、幼い同じ年くらいの容姿をしていたことだった。
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