第四章

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名無し、と名乗ったその使用人は、本当に名前がないらしく、俺も彼を名無しと呼ぶことにした。 名無しはとにかく馬鹿で、明るくて、少しドジで、愛嬌のある少年だった。少しだけ触らせてもらったその髪は、思った以上にふわふわしていた。猫みたい、と言うと彼は少しだけ嬉しそうに笑った。 「寛人はさぁ」 「ん?」 いつものように名無しがご飯を運んできて、急かされるように朝食を口に運んでいるとストレートに聞かれた。 「なんで離れでひとりなんだ?」 それはもう、きょとん、と首を傾げて。ただ疑問に思ったんだろう、何故とか一切自分で考えず思ったことをそのまま口に出したのだろう。 だからだろうか、俺も素直に答えられた。 「え、分かんない」 「えっ」 「えっ」 「………」 少し無言になって、名無しは考え込むようにうーん、と顎先に手を当てて唸った。そのしぐさは数秒と持たず、いつもの無邪気な笑みが浮かべられたけど。 「俺もわかんね」 それはそうだ。 名無しは当事者じゃないし、そもそもこの屋敷に来たのが俺が離れに移された後だ。ただの使用人に屋敷の内情なんて分からないだろう。 そっか、と返して最後の一口を口に運んで、咀嚼と嚥下を反射的に行う。きれいになった器を重ねて盆に返すと待ってましたとばかりに名無しが立ち上がる。 「よし、食い終わったな!あー、俺も腹減った。サナが来ないうちに退散しよー」 その言葉に俺は苦笑いするしかなかった。サナと名無しの相性は最悪も最悪。サナは俺を溺愛しているから、一緒にいる名無しが単純に気にくわないのだろう。名無しは名無しで、勝手に嫉妬されてサナを煩わしく感じているようだった。
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