エピローグ

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ーー夢を、みていた。 最初は、何のとりとめもない夢だった。 葵がいて、桃がいて、サナと一緒に大きな屋敷の庭の隅で穏やかに話をしていた。くだらない話に笑いながら、ただ過ぎていく穏やかな日常。 次に見ていたのは、苦しい夢だった。 目の前に広がる血溜まり。 動かなくなった友人。 血の巡りが止まったかのようにひんやりと指先は体温を失って、すべてが真っ暗に、黒に染まる。 その次は、闇の中に一筋の光を見つけた。 足が引きちぎれそうなくらい走った闇の先に光をさす太陽が現れた。ドラマや映画みたいに、俺を飲みこもうとする闇を、笑いながら倒してくれる神楽。 太陽は、暗闇を眩しくない程度に少しだけ明るく灯しては徐々に明るい道へ導きながら、ちょっと先を歩いていた。 明るい道を辿っていけば、夢はまた少しだけ暗くなった。 寂しい夢だった。 真っ暗ではないから、どこかにいるはずなのに、その光源を見つけ出せない。神楽が目の前から消えてしまった。神楽がくれた懐中電灯を手に薄暗い部屋の中で、俺は延々と太陽を探す。 夢はしばらくして、また太陽が現れた。 ぬるま湯に浸かっているような心地良さ。陽だまりに寝そべり、神楽と手を繋いでいた。ずっと望んでいた光景。もう懐中電灯は必要ないから、電源を落としていた。 太陽が照らしてくれるから大丈夫だと思っていた。 それなのに、夢はこれでいいのかと、理由の分からない焦燥感を持たせた。 光の中と、闇の中を繰り返し、行き来する。 光だろうと闇だろうと、俺はいつだって道標の太陽を見失わないように歩いていた。太陽を失うこと、また暗闇に落ちることがこわかった。 暖かな太陽が好きだった。 懐中電灯なんて、太陽があるなら必要ないと思っていた。 それでも、電源を落とした懐中電灯はずっと手に握られていた。 電源をずっといれていなかったから、壊れているなんて気づきもしなかった。気まぐれで、いざ光をつけようとした時にようやく気づいた。 その時に、その懐中電灯は俺にとって、いつの間にか大切なものに変わっていたのだと気づいた。 道すがら、手に懐中電灯を持っているなんて気にもせずブンブン振り回していたせいなのか、傷だらけになっていた懐中電灯。 傷だらけなのに、なんだかそのボロボロな姿が愛おしかった。 だから太陽に、ずっとそばにいてあげるからそれを置いてきてと言われても、できなかった。 断ったら、太陽に捨てられるかもしれないと思っても、手から離れなかった。 今壊れているだけかもしれない。 またいつか、灯りを灯してくれるかもしれない。 傍らにおいて見守っていたかった。 また光ってるところを見たかった。 夢の中で夢を見るなんておかしな話だ。 それでも俺は確かに、懐中電灯がまた光って、一緒に笑ったり、喧嘩したり、泣いたりする当たり前だった日常を夢見ていた。 そして夢は唐突に、現実で叶う。
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