スイマーよ!

2/2
前へ
/29ページ
次へ
ある島に、まだ小さなカモメがいた。そのカモメは、皆が飛ぶ練習をしているのに、ただ海を眺めていた。 空を飛びたいけれど、そのカモメはコツを掴めず、周りはもう近々飛べそうなくらいになったのに、一向に飛べる気配すら見えなかった。 そんな時、いつものように海を眺めると、ペンギンが海を泳いでいた。カモメはそれに憧れ、それから毎日海に入って泳ぐ練習をした。飛ぶことは諦めて、泳いで生きていこうと決めた。 幸い、泳ぎの才はあったらしく、みるみるうちに泳ぎが上手くなった。周りは自由に空を飛んでいるが、全然羨ましくなかった。僕はこんなに速く泳ぐことができる、しかし君たちは泳げないだろう。 そんな優越感さえ持っていた。なにせここまで泳げるカモメは僕だけなんだ。カモメは毎日泳いで、自由に魚をとり、そして海に浮かんで空を眺めていた。 そんなある日、仲間のカモメたちが一斉に空へ羽ばたいた。飛べないカモメは、不思議に思い、一羽のカモメに聞いた。 「どこへみんなでいくんだい」 「ここはもうじき寒くなって、住めなくなるから、別の島へ行くのさ。君も急いだほうがいいよ」 そのカモメはそういうと、すぐさま羽を広げ、大空へ飛び立った。 飛べないカモメはその話しを聞いて、焦りどころか、嘲笑うかのように海に飛び込んだ。 「アイツらは空ばかり飛んで、海の水の冷たさに慣れていないのさ」 飛べないカモメは、皆が飛び立った後もその島に残った。毎日一人で泳ぎ、魚をとっては啄んだ。 そして、冬がやってきた。飛べないカモメにとって初めての冬だった。島は雪に包まれ、草木は枯れ、海は氷を張っていた。 「そんな、海がこんな風になるなんて」 飛べないカモメは、氷の張った海に向かって泣いた。海が彼に見せた、初めての厳しい顔だった。 カモメは氷の上をよたよた歩き、何かを探し回るように歩いていた。 「うわっ」 カモメは足を滑らせ、氷の薄い部分に尻餅をついた。すると、氷はびきびきと音を立て、カモメを海へと誘った。 「冷たいよ、冷たいよ。みんな、助けて」 必死に助けを呼び、氷の上に戻ろうとするけれど、手が滑ってしまってそれができなかった。 そして、氷のような海の中で、いつものように空に目をやった。しかし、そこにいつもの群れの姿はなく、遠くでペンギンたちが楽しそうに泳ぐ姿があるだけだった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加