3人が本棚に入れています
本棚に追加
ある島に、まだ小さなカモメがいた。そのカモメは、皆が飛ぶ練習をしているのに、ただ海を眺めていた。
空を飛びたいけれど、そのカモメはコツを掴めず、周りはもう近々飛べそうなくらいになったのに、一向に飛べる気配すら見えなかった。
そんな時、いつものように海を眺めると、ペンギンが海を泳いでいた。カモメはそれに憧れ、それから毎日海に入って泳ぐ練習をした。飛ぶことは諦めて、泳いで生きていこうと決めた。
幸い、泳ぎの才はあったらしく、みるみるうちに泳ぎが上手くなった。周りは自由に空を飛んでいるが、全然羨ましくなかった。僕はこんなに速く泳ぐことができる、しかし君たちは泳げないだろう。
そんな優越感さえ持っていた。なにせここまで泳げるカモメは僕だけなんだ。カモメは毎日泳いで、自由に魚をとり、そして海に浮かんで空を眺めていた。
そんなある日、仲間のカモメたちが一斉に空へ羽ばたいた。飛べないカモメは、不思議に思い、一羽のカモメに聞いた。
「どこへみんなでいくんだい」
「ここはもうじき寒くなって、住めなくなるから、別の島へ行くのさ。君も急いだほうがいいよ」
そのカモメはそういうと、すぐさま羽を広げ、大空へ飛び立った。
飛べないカモメはその話しを聞いて、焦りどころか、嘲笑うかのように海に飛び込んだ。
「アイツらは空ばかり飛んで、海の水の冷たさに慣れていないのさ」
飛べないカモメは、皆が飛び立った後もその島に残った。毎日一人で泳ぎ、魚をとっては啄んだ。
そして、冬がやってきた。飛べないカモメにとって初めての冬だった。島は雪に包まれ、草木は枯れ、海は氷を張っていた。
「そんな、海がこんな風になるなんて」
飛べないカモメは、氷の張った海に向かって泣いた。海が彼に見せた、初めての厳しい顔だった。
カモメは氷の上をよたよた歩き、何かを探し回るように歩いていた。
「うわっ」
カモメは足を滑らせ、氷の薄い部分に尻餅をついた。すると、氷はびきびきと音を立て、カモメを海へと誘った。
「冷たいよ、冷たいよ。みんな、助けて」
必死に助けを呼び、氷の上に戻ろうとするけれど、手が滑ってしまってそれができなかった。
そして、氷のような海の中で、いつものように空に目をやった。しかし、そこにいつもの群れの姿はなく、遠くでペンギンたちが楽しそうに泳ぐ姿があるだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!