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「黒い夜」
昔から奇襲は深夜と相場が決まっている。私たちもそれに倣い、本日の2時を作戦開始時刻と決定した。長年、私たちの部族は、自らを開拓者名乗る者共に安住の地はおろか、生きることさえ阻害され続けている。皮膚の色が黒いというだけで、目の色が違うというだけで、言語が違うというだけで。
私たちは奴らの身振り手振りで感情を計り、コミュニケーションをとろうとしたが、奴らは私たちの言葉を理解しようとしなかった。和平を申し入れようと使者を送っても、送られてくるのは変わり果てた亡きがらでしかない。
住みなれた故郷と子供たちの笑顔を取り戻すためには、危険を承知でも、私たちはやらねばならない。
だが、問題もあった。悔しいことだが、奴らは我々より数段上の軍事力を備えている。これまでも勇敢な若者が身を賭して戦いを挑んだが、犬死にと呼ぶほかない最期でしかなかった。もう犠牲はたくさんだ。私はもう倒れ逝く仲間を見たくない。この戦いが我々の最期の戦いとなろう。
「マルマルマルニイ。作戦開始だ」
私の命令を皮切りに、迷彩塗装を施した30人からなる大隊が闇の中で蠢き始める。まずは三人構成3小隊が、敵陣に奇襲をしかけた。奴らの一人が攻撃に気づき奇声を上げる。それに反応し、仲間が次々と目を覚ましていく。まずい。こうも覚醒が早いとは……。
すぐさま航空部隊が援護に入る。航空部隊の牽制に翻弄され、奴らは統率を失っていた。仲間割れを始めている。しかし、その内の一人が彼等の身の丈ほどもある近接武器を取り出し、やみくもに振り下ろした。仲間はとっさにかわそうとするが、そのうちの一人がそれの餌食となった。
「野蛮人どもめが。みなっ、かかれっ」
控えていた追撃部隊が一斉に特攻する。もちろん私も、拳を握りしめて、仲間とともに向かっていった。すると、奴らは私たちの気概に圧されたのか、一斉に撤退を始めた。私たちは勝ったのだろうか。周りを見渡すと、10名ほどが息絶えている。それには若い者、年老いた者、子供のためにと狩り出した母親までもがいた。私たちは彼等に祈りをささげ、勝利の喜びを分かち合った。ここは私たちの居るべき場所だ。それが証明された。疲れ果てた私たちは、戦場で横になり、空を眺めながら静かに眠りについた
翌朝、起きると不快な臭いが漂っていた。
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