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私は生まれた時から大統領だった。いや、正しく言えば大統領になるしかなかった。そしてもっと正確には生まれる前から大統領になるべき存在だった。
そして私は今もちろん、大統領だ。国を代表し、国民を統率すべき存在として日夜仕事に勤しんでいる。
「ほう、やはりジャイアンツが優勝したな」
私は新聞を広げ、ジャイアンツの優勝を報じる記事を見た。できれば来世は野球選手として、生まれてみたいものだ。
いや、こんな記事を書ける新聞記者もいいかもしれない。いずれにせよ、来世への期待は高まるばかりだ。
そんなことを考えていると、秘書のフクムラ氏が部屋を訪れた。
「大統領、出発の時間です。御準備はよろしいですか」
「うむ。予定通りだな。すぐに発とう」
私はすぐさま専用機、エアフォースワンに乗り込んだ。思えばこの機も、私が生まれる前から出来上がることが決まっている。そして、これを作った技術者が生まれることも。そしてその技術者が、これを生み出すことも。今から私がこの機で飛び立つことも。全て予定通りだ。
「これより乱気流に突入します。ご注意を」
アナウンスがそう告げた。私は瞬間的に、ベルトを締め直した。そして、機はガタガタ震えだした。
「この機は墜落します。皆さん、救命胴衣をおみにつけ下さい」
「そうか、今日だったか。そういえば忘れていたな」
機は凄まじい轟音を上げながら、下降していった。予定通り、皆は悲鳴を上げながら逃げ惑っている。そうだ、私の役目はなんだったろうか。
私は予定表を取り出した。そこには今日の日付で、「シモムラ大統領、大統領専用機の大統領席で座ったまま、即死」と書かれていた。
「このまま座っておればよいのか。実に、大統領らしい最後だな。どれ、次はどんな私で生まれてくるのであろうか……」
次の大統領が誰になるかは、またあの大掛かりなコンピューターが無作為に選びだすのだろう。大統領に相応しい能力を持って、相応しい環境を決めてくれる。
もちろん、いつ何をすればいいのかも。そして、それに逆らうことはできない。知らずうちに、逆らった結果、滅びたのが愚かな前の人類だ。
私という存在の全ては、生まれる前から決められていることなのだ。こうして、こんなことを考え、あと数秒のうちに、静かに眠りにつくことさえも。
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