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スピカがいなくなった時、僕は驚かなかった。僕はいずれスピカが去ってしまうことが分かっていた。分かってはいても、止められなかった。
あの時、あの最後のキスの時、スピカは泣いていた。涙の理由は聞かなかった。聞いてはいけない気がしたから。
僕の隣にスピカはいない。それでも僕は、彼女が隣にいた証を探してしまう。それは何処にも見当たらない。あれは夢だったのでは、そう思えるほどに。
「スピカ」
僕は彼女の名を呼んだ。返事はなかった。僕の隣に彼女はいないから。
「ねえ、スピカ」
それでも僕は名前を呼んだ。いなくなったことを、心は受け入れてくれなくて。
スピカがずっと空を眺めていた理由が、今の僕には分かる気がする。
スピカ、探していたんだろう? 僕が君を探しているように。
「スピカ」
スピカ。
スピカ、もう一度だけでいい。触れたい。君がいてくれるだけで、それだけでよかったというのに。
「スピカ」
「スピカ……?」
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