ラクトガール

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あれから、5年の月日が流れた……十夜は相変わらずこの図書館に通っている。出会ったばかりのあの頃、 わたしより低かった身長は、今ではわたしを遙かに越し、わたしが見上げなければならなくなった。顔も、少年のあどけなさは抜け、一人の青年に成長していた  やはり、人間の成長は早い……わたしなんか、たった5年じゃ、外見の変化が表れようも無いのに……  外見ばかりでは無く、精神面でも成長し、十夜は、長い間わたしと一緒に本を読んでいたせいか、魔術書に書かれている文字も読めるようになっていた。 「はい、パチュリー様。冷めないうちに飲んでください」  そう言って、十夜がわたしの分のコーヒーを目の前のテーブルに置いてくれる。漆黒の液に満たされたコップからは、ほこほこと湯気が立っている 「ありがとう、十夜」  コップを鼻に近づける。独特の香ばしい香りがする。普段飲んでいる紅茶とは趣が違うが、コーヒーの香りも、鼻腔をくすぐる、なんとも言えない、良い香りだ  こくりと喉を鳴らして、漆黒の液体を飲み込む… 「……ん、相変わらず美味しいわね、あなたの淹れるコーヒーは」  確かに、十夜の淹れてくれるコーヒーは美味しい。最初の頃は甘すぎたり、苦かったり味に統一性が無かったのだが、回数を重ねる度に上手くなっていき、今ではわたし好みの味をいつでも作り出せるようになった 「へへっ、もちろん。パチュリー様のために淹れたコーヒーですから。まぁ、もっともこの紅魔館でコーヒーを飲むのは俺とパチュリー様だけですからね………味のバリエーションも限られますし…」  十夜は少し寂しそうに鼻の頭を人指し指で掻いた後、自分の分のコーヒーに口を付けた  この5年の間に、十夜は『僕』という一人称から『俺』と言うように変わっていた。成長した姿には釣り合った一人称だが、わたし個人としては、『僕』であった方が、なんとなく気に入っていたのだが………
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