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木洩れ日が、道ない道を照らす。
初夏の風が、悪戯に木々を揺らす。
その中で、ある二つの影。
まだまだあどけない小学校中学年の少年と少女。二人とも、外に遊びにきたにしては、表情が明るくない。いや、暗いと言った方が適切であろう。
今は二人を繋ぐ手と手も、明日には消えてしまうことを考えると、どうしても笑顔になれずにいた。
ただ、少年はどうしても“あの場所”へと少女を届かなくなる前に連れていきたかった。初めて二人だけで遊んだ、“あの場所”へ。
「……翔」
「…………」
少女が、少年の名を呼ぶ。
だが少年は返事をするどころか、振り向きさえしない。ただ、前を見据えて歩き続ける。
少年に手を引っ張られる形で連れてこられた少女は、もう一度彼の背中を見つめながら名を呼ぶ。
「翔……」
「……舞」
雑木林の中を通り抜け、開(ひら)けた場所にたどり着いた少年は、少女の呼びかけにやっと反応した。振り向き、今でも堪え続ける涙を必死に瞳にためながら、少女の名を呼び返す。
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