‐The moon‐

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  「先生! 勝手に決めないでください!」  熊ちゃんのこの理不尽な計らいに異議を唱えた人間がひとり。あ、俺じゃないよ瑞穂だよ。俺の場合は涙目で体育座りをして教室の隅でイジケるタイプだから。  喜ぶ舞に抱きつかれても反応できないほど呆然としている俺の目の前の席で、瑞穂はいきなり立ち上がり、声を大にして反対の旨を主張する。突然大きな音を立てるから、舞をびっくりして自分の席に戻っていった。なんだ、やればできるじゃないか。 「え、だってお前たちならノリノリだと思ったんだが……イヤなのか相沢?」 「秋野です」  お久しぶりですこの件(くだり)。  一学期以来の熊ちゃんの呼び間違いに俺は一種の懐かしさを感じた。久方ぶりに田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行ったときの感覚である。これはきっと自分の思い違いではないだろう。……あれ、そう言えばさっきフツーに瑞穂のことを秋野って呼んでたよな?  担任がキャラ作りしていたことが発覚した高一の秋。  
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