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「また――天見さんの殺人カレーを食べて騒ぎたいなって」
『さっ、殺人って……!!』
涙声混じりのアイルの非難を無視しながら言葉を続ける。
「テストの成績で勝った後の上之宮さんのネチネチとした怨み節が聞きたいなって」
『……そんな事思ってたんですか』
覚えておきます、というレイナの怒りに満ちた言葉を受け流し……今度はヒカルを見やる。
「我が家に帰って――また犬に餌をやってブクブク太らせてやりたいなって」
微笑を浮かべていたヒカルの笑みが途端に歪む。
ちなみに我が家では犬など飼っていない。つまり犬とは……言わずもがなである。
しかし他の二人は僕とヒカルの関係を深くは知らないので、ヒカルは下手な反論が出来ずにいるようだ。
結果、三つの非難と怒りと哀しみを込めた視線がモニター越しに突き刺さってきた。
それを見て、クスクスと笑う。
「ほら、みんな僕を後でぶっ飛ばしたくなったでしょ。なら――皆で生きて帰ろう。生きて戻って僕を怒ってくれ。訳が分からない怪物なんかに負けないでくれ。絶対――死なないでくれ」
そう。
僕達は戻るんだ。
あの学園生活の続きを送るために。
騒がしく、楽しく、皆で笑い合う為に。
しばらくの沈黙があった。
その後、はぁというこれみよがしのため息をレイナが漏らし、言った。
『名は体を表すとは言いますが……我等が隊長は人身掌握の術に長けていらっしゃるようで、頼もしいですね』
『私……黒井くんを信じられなくなってきたよ……』
「そうでないとこの曲者ぞろいの分隊の面々を率いてく事なんかできないよ。あと天見さん、上官への不信は抱かないように。これは上官命令です。……涙目になっても撤回しないよ。って――忘れる所だった。曽根川伍長、大丈夫?」
最後に、ヒカルに最初の質問を投げかけた。
意趣返し。僕の意図を読み取ったのか、呆けた表情でいた彼女は途端に顔を引き締め、力強く応えた。
『うん――こちら曽根川伍長、問題なしです!』
彼女の声を聞いて。
本当に安心して、僕は自分達の生還を疑わなかった。あの日に戻れると信じた。
でも――それは叶わないものであると、僕はこの時気付く由もなかった。
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