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――真っ黒な太陽と、蠢く肉塊で埋め尽くされた地平線。
かつては四国であった、今では見渡す限りの焦土となっている大地。
その上をやはり見渡す限りの肉塊が犇めき合って群居している。
それらは全て、この星を蹂躙せんと顕現したカミサマの一部であり、同時にカミサマそのものであった。
そしてそれらの肉塊を指揮し、肉塊達を顕現させている物体――この黒い太陽を守っているのが、僕だった。
かつて僕は確かに人間だった。
その頃の想い出も。その頃には確かに持っていた人としての感情も。その頃に抱いていた夢も。
全てが磨耗しきっていて、満足に思い出す事ができないけれど、僕は確かに人間だった。
――そんな僕を、僕が愛した人間が殺しに来る。
肉塊の群れを引き裂く蒼刃。血煙が舞い、極彩色の肉片が飛び散る中を、蒼銀の鎧が疾走する。
人がカミサマを殺す力を纏う為に作られた兵器、鎧装機。
それを駆る少女が、僕の愛した少女が、僕を殺す為に地獄と化した大地を駆け抜ける。
それを見下ろし、見届けながら僕は待っていた。
全てはこの時の為に。
彼女が僕を殺しに来るこの時まで、僕はひたすらに耐えていたのだ。
最後に大振りの斬撃を放ち、群がる肉塊を払った後、鎧装機は飛翔した。
スラスターから赤い翼が広がり、重力の枷を切り払い、鎧は一直線に空を駆けた。
『ナアァァァァル!!』
憎悪に満ちた、僕のもう一つの名を呼ぶ声。
僕は外套を翻し、それに応じた。
はためく外套から現れた半身の魔人。
影絵を思わせる質量を感じさせない身体と翼、その中に燃え上がる赤い三つの眼。
カミサマ――ナァルの千の異なる顕現の内の一つ。それを武装として纏い、彼女と対峙した。
赤い空。黒い太陽の下。
空に広がる輝きと、空を染める闇が一直線に交わる。
そして――ここに「ゆうしゃ」と「まおう」の戦いが決着を迎えようとしていた。
残酷で優しい最期を、僕にもたらすために。
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