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一章
――11月10日。
その日の朝もいつもと代わり映えがしないものだった。
身支度をしてから台所に立ち、朝食を作る。そして彼女が訪れるのを待つのだ。
鍋にダシと溶いた味噌を入れ、味を確かめる。
……少し塩辛い。でも具が多いからこれで良いか。鍋に蓋を置き、卵6個分のだしまきを作る作業に移った。
「おはよ~~……」
呆けた声がキッチンに入ってきた。低血圧気味だから仕方ないのだが、その声とだらけきった姿を見ると脱力してしまいそうになる。
お隣さんであり幼馴染である、曽根川ヒカルだった。
「おはよ。まだかかるから、顔でも洗ってきなよ。今日は一段と酷いよ」
見れば細目ならまだしも、目が開いてない。二時間早く起きるだけでこうまでなるか。
「いや~、家で何度も洗ったんだけどね……やっぱ私はユウタくんの作るお味噌汁を嗅ぐ方が目が覚めるみたいで。私にとってユウタくんのお味噌汁は朝日と一緒なんだよ」
「朝日を浴びると体内時計がリセットされるんだっけか。でもさ、匂いで目が覚めるのってそういうのじゃなくて……アレだ、パブロフの犬」
「……どういう意味?」
「条件反射で出るよだれと一緒って事」
「む~~~~っ!!」
テーブルの上にへばったままで、彼女は抗議の声を出した。
それがおかしくて――可愛くて、笑い声を上げる。
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