一章

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そんなこんなで彼女をからかってる内に料理が出来た。 二人揃って『いただきます』を斉唱して、料理に箸をつける。 しばらくして彼女が一言。 「……今日は具が多いね」 「まだ冷蔵庫に材料が残ってたからさ、全部つっこんでみた。処理するのを手伝ってもらえるとありがたいよ」 汁より具の方が多い味噌汁。名前に汁と付けて良いのか迷うほどの様相を呈している。 だしまきも二人分にしては結構な量になっている。 食べきれるかどうか不安になってきた。 「こんなに食べたら太っちゃうよ……」 「そういうの気にしてたんだ」 「ユウタくん……? 私も一応女の子なんだけど」 「へぇ、知らなかった……ってごめんごめん、言いすぎた。野菜が殆どだから大丈夫だよ」 僕の容赦無い言葉を受け涙目になっている彼女を、必死で宥める。 ……彼女の起伏の無い体型を見るといっぱい食べた方が良いと思うのだが、それを言うとしばらく口を利いてくれなくなりそうだったので、胸中に留めておく。 つまるところ、曽根川ヒカルと僕――黒井ユウタとの関係はこんな感じだった。 幼馴染という言葉で連想される、甘酸っぱい関係とは縁遠い、男女とか言う性差が全く介在しない関係。 彼女は近すぎて、遠すぎた。小さい頃からずっと一緒で、家族同然で。それ以上に踏み込めなかった。 彼女の父が研究者で滅多に家に居らず、よくウチに入り浸っていたというのもそれに拍車をかけた。 この距離が、この関係が、居心地が良すぎてそれ以上に踏み込めないのだ。 だから――僕の心を占めるこの想いは、行き場を失って彷徨い続けていた。
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