おばあちゃんの家

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残されたのは、俺と赤ずきん。 止まったままの赤ずきんの後ろに回り、俺は話しかける。 「なぁ……俺、お前にひどいことしちまったのかもな……」 赤ずきんは何も言わない。 止まってるから当たり前なんだけど。 「お前、おばあさんが死んだ現実を受け入れたくなかったんだな……」 おばあさんが大好きだったから。 「だから、ドアを開けたら、おばあさんが待っててくれてるって思うことにしたんだろ……」 笑顔のおばあさんがそこにいるって。 「おばあさんに会えないのは、ただドアを開けてないからだって思い込んでたんだろ……」 だからずっとドアの前に立って…… 雨の日も、ずっと…… 「それなのに俺……ドアを開けて、誰もいない部屋をお前に見せちまった……」 辛い現実を…… 「ごめんな……」 それでも赤ずきんは動かない…… 俺は、赤ずきんの正面にまわった。 「でもな、森の奥の家に行けって言ったのは、お前のあばあさんなんだよ……」 森の中で聞いたあの声。 「お前のおばあさんが俺に行くように、声で教えてくれたんだ……」 一瞬、赤ずきんの目に光が宿った気がした…… 「おばあさんはな……自分のせいでどんどん汚れていくお前を、見たくなかったんだよ……」 おばあさんに会うために、人を襲って歪んでいく姿を。 「ドアを開いて、現実を受け入れて……前に進んで欲しかったんだよ」 すると、止まっていたはずの赤ずきんが顔を上げた。 目が潤んでいるのが見えた。 ゆっくりと口を開き、赤ずきんは言った。 『ありがとう』 そう言って、自らドアを開けた。 そして…… 淡い光となって、赤ずきんは消えた。 俺は、泣いていた…… 悲しいからの涙なのか、俺には分からなかった…… ただ分かるのは、赤ずきんの最後の顔が…… すごく綺麗な笑顔だったということだけだった。 …… ……
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