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「…何、言っ…て」
(冗談?…でも)
驚愕のあまり尻餅をついたまま暁を見上げると、告げた本人は表情も変えずに俺を見下ろしている。
熱い言葉とは裏腹な表情…けれどその目は真直ぐに俺だけを見て。
──逸らせなかった。
まるで、あの視線の理由がそこにあるかのように。
これが冗談であるわけがない。そう一瞬で確信させられた。
だから
「──…!」
俺は…俺、は
一ヵ月前よりも先刻よりも、今の方が怖かった。怖いと思った。
その目が、何よりも。
今この瞬間に捕らえてしまっていることが。
何、よりも……
「…っ俺、帰ります…!お邪魔しました」
重圧感に耐えられなくなり、とっさに起き上がってそのまま立ち去ろうとすると、腕を掴まれる。
しかし今度はその手を強く振り払った。
「……ッ…猫、拾ってくれて有難うございました…」
「………」
俺は顔を見れず、俯きながら頭を下げた。
暁は何も言わない。
だけど…
「…ごめんなさい!」
逃げるようにそこから立ち去った俺の姿と言葉に、暁の表情が歪んだのが一瞬見えた。
ドアを閉める瞬間、川崎、と聞こえたのも。
だけど俺は振り返ることが出来なかった。
<続く>
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