プロローグ

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――どこかで独り言のような、静かな声が聞こえる。 いささか年季の入った声色で、まるで子供に夢物語を語るように声を紡ぎ出す。 ……それは、今から30年前の話。 『グウェム紀50890年頃の話だ。今と違って、この大地はそれはそれは強大な5大国に統治されていた……。 それぞれ絶望的なくらい仲が悪く、大きな戦争が絶えなかった。 5つの国の国力はほぼ同等で、世界を何回も滅ぼせる位の力を持っていたが、常に仲たがいをしていて、ある時には激しく戦いを繰り返し、またある時には、停戦や裏切りを繰り返していた。 当時の国民にとっては、途方もない苦しみの毎日が続いていただろう。 そんな国同士の争いは、憎しみを生み、悲劇を生み、悲しみを生んだ。 果ては、子供の親を奪い、親は兵隊に駆り出された子を嘆き、その頃の世界はまさに地獄と化していたのだ。 まさに乱世の時代。 当時の主な戦力は、科学力と軍事力があったが、もう一つ。これが中々恐ろしいもので、魔術師と呼ばれる魔術使い達がいた。 初めのうちは、人とはかけ離れた力を持つ彼等を戦力として、様々な掟で支配していたのだが、ある一人の女を筆頭に魔術師同盟と呼ばれるものを創立した。 勿論、互いの国には秘密に。 そして、彼等の目標はただ一つ。魔術師達は弱者の為、己の信念の為、この地を統一して人を救うことを誓ったのだ。 その為に、全ての狂った権力者に反乱の声をあげた。そしてわずか1年後には、圧倒的な力を見せつけ、目的通りこの地を統一したのだ。 翌年、魔術師同盟が築き上げた国は、世界唯一の国家として『ユートビアンカ』という名に生まれ変わる。 戦争の傷痕を修復しつつ、今のように、魔術師同盟からの援助を受けて、国家として成長していったのだ。 そして、その魔術師同盟の一番上に立ち、後に救世の戦い――ジ・ガラウェス=セトラムと呼ばれた戦争で、一番の功績者である一人の女を、戦争当時の国民は皆口を揃えて賛美した。 ゙かの世界を救いし魔女、イシュヴァは偉大なり゙と。 イシュヴァは30年経った今も尚語り継がれ、知らぬ者は誰一人として居ない。 そしてイシュヴァはいつしか世界魔女と呼び褒め称えられたのだ。 分かったかね? 30年前のこの日、偉大なるユートビアンカと世界魔女イシュヴァは誕生したのだよ』
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