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香奈は恐る恐る店の中に入って行った。
駅前の喫茶店。
いつも学校の行き帰りに何気なく前を通っていたけれど中に入るのは今日が初めてのことだった。日曜日の夕方にしては客が少なかった。
「お好きな席にどうぞ」
店員の女性に促され香奈は通りが見える窓側の席に座った。
珈琲の香りが鼻をくすぐる。
控えめな音量でクラシック音楽が流れていた。
香奈は入り口の扉がチリリンと鳴るたびにドキドキしていた。
待ち合わせ時間は午後4時。あと10分ほどある。
待ち合わせの相手は同級生の耕平。
小学生時代からの腐れ縁で同じ高校に入学。
おまけに家も近所で父親同士がゴルフ仲間ということもあって家族ぐるみの交流をしていた。
香奈は美術部で耕平は野球部。学校では特に親しく話しているわけではなかったが携帯ではよくメールで話したりしていた。
今日この喫茶店での待ち合わせを決めたのは耕平だた。
昨夜遅くに届いた耕平からのメール…
『よぉ!もう寝ちゃったかぁ?明日だけど香奈に個人的に話があるから会いたいんだ。駅前の喫茶店知ってるよな?そこに3時に待っててくれるか?突然でごめんな!ヨロシク!』
このメールに気がついたのは朝だった。
個人的な話って…
メールじゃダメなわけ?
香奈はそんなことを思いながら承諾の返信メールを送ったのだった。
やだな…
私ったらなんでドキドキしてるんだろう…
すると…
「あのぅ…ご注文はお決まりですか?」と女性店員が声をかけてきた。
「あ…まだなんですけど。もう一人来たらでいいですか…?」
「はい。かしこまりました」
たしか日曜日は練習試合があるって言ってなかったかな?
ちょっとホントに4時に間に合うわけ…?
香奈は不安になりながら時計を見た。
ちょうど4時。
その瞬間に入り口の扉が大きく開きユニフォーム姿の耕平が飛び込んできた。
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