紅い雪と白い華

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 光が暗い闇を明るく照らす。  鳥の鳴き声に誘われるように外へ出ると、この時期の早朝らしい少し湿ってはいるが新鮮で気持ちのよい空気が体を包む。  少し離れた山々の隙間からは朝日が顔を出し始めていた。もうじき今よりも明るくなるだろう。  日が昇れば父は家の近くの畑で仕事を始め、母は忙しなく家事を行い、妹は兄の手を引き、遊ぼうとせがんでくる。  いつもの朝。いつも通りの安穏とした日々。  だが、この日は違った。  母は、外へ出ては駄目だと言い、父は、大丈夫だ安心しろと言った。  外では鳥の鳴き声ではなく、金属同士のぶつかり合う音と悲鳴に似た声がする。  明らかに“いつも”の朝ではなかった。  震える妹を宥めるように抱きしめ、外へ出て行こうとする父と母を笑顔で見送った。  本当は、行かないでと言いたかった。怖いと言って両親に抱きしめて欲しかった。  でも妹の手前、兄である自分が弱い姿を見せるわけにはいかない。  男は強く、逞しく。女は賢く、優しくありなさい。父の口癖だった。
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