1992年

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1992年

千鶴は学校が終わり、下校していた。 千鶴の父親が警察に捕まった事が、クラス中に広まり、千鶴は毎日イジメにあっていた。 担任の先生さえは、見て見ぬ振りをしていた。 母にもこれ以上、心配をかけられず誰にも相談できなかった。 もう自分の存在を消してしまいたかった。 そうすればきっと楽になれるのに……、そう思っていた。 千鶴はいつも学校帰りに、晩御飯を買って帰る。 家に帰っても母親は仕事に出ている為、いつも一人なのだ。 今日は母のメモを頼りに、スーパーで買い物をして帰る所だった。 いつもは弁当屋で済ませるのだが、その日はお母さんが久しぶりに早く帰れそうなのだ。 スーパーの袋にはすき焼きの為の食材が入っている。 その時、後から少年達が走ってきた。 いつも自分を虐めるグループだ。 少年達が通り抜け様に袋を次々と蹴飛ばした。 袋が飛んで地面に無残に落ちた。 すき焼き用のタマゴが割れたのだろう。 袋からドロッとした液体が零れている。 一通りからかって飽きた少年達は走り去っていってしまった。 千鶴がしゃがみ込み泣いていると、一人の青年が立ち止まった。 「君、大丈夫かい?」 千鶴を助け起こすと、スーパーの袋を拾ってくれた。 「タマゴ割れちゃったみたいだね。……今日はすき焼きかい?」 袋の中身で気付いたのだろう。千鶴は小さく頷いた。 青年は自分のスーパーの袋から生卵を二つ出して、千鶴の袋に入れた。 「タマゴのないすき焼きなんて、シラけちゃうもんな」 千鶴の頭をクシャっとして笑った。 そのまま振り返ると、青年は何事もなかったように去っていった。
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