12人が本棚に入れています
本棚に追加
1992年
千鶴は学校が終わり、下校していた。
千鶴の父親が警察に捕まった事が、クラス中に広まり、千鶴は毎日イジメにあっていた。
担任の先生さえは、見て見ぬ振りをしていた。
母にもこれ以上、心配をかけられず誰にも相談できなかった。
もう自分の存在を消してしまいたかった。
そうすればきっと楽になれるのに……、そう思っていた。
千鶴はいつも学校帰りに、晩御飯を買って帰る。
家に帰っても母親は仕事に出ている為、いつも一人なのだ。
今日は母のメモを頼りに、スーパーで買い物をして帰る所だった。
いつもは弁当屋で済ませるのだが、その日はお母さんが久しぶりに早く帰れそうなのだ。
スーパーの袋にはすき焼きの為の食材が入っている。
その時、後から少年達が走ってきた。
いつも自分を虐めるグループだ。
少年達が通り抜け様に袋を次々と蹴飛ばした。
袋が飛んで地面に無残に落ちた。
すき焼き用のタマゴが割れたのだろう。
袋からドロッとした液体が零れている。
一通りからかって飽きた少年達は走り去っていってしまった。
千鶴がしゃがみ込み泣いていると、一人の青年が立ち止まった。
「君、大丈夫かい?」
千鶴を助け起こすと、スーパーの袋を拾ってくれた。
「タマゴ割れちゃったみたいだね。……今日はすき焼きかい?」
袋の中身で気付いたのだろう。千鶴は小さく頷いた。
青年は自分のスーパーの袋から生卵を二つ出して、千鶴の袋に入れた。
「タマゴのないすき焼きなんて、シラけちゃうもんな」
千鶴の頭をクシャっとして笑った。
そのまま振り返ると、青年は何事もなかったように去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!