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これは、とある冬の話になるのだが、小生がいつものように鹿と会話をしていた時の事だ。
小生は、そろそろこの鹿の親馬鹿話に少々飽きが来ていた。
やれ自分の息子は他の小鹿に比べ、立ち上がるのが早かった。やれ走るのなど、この辺りで一等だ。など。
小生が曖昧に返事をしていれば、「ちょっと、聞いてますか、長さん」と、鹿が小生を諭す。
……長さんとは、小生の呼び名だ。
小生がこの山で一番大きく、永い人生を過ごしているからだ。
小生は、「聞いているさ。で、その息子の尾がどうした?」と、鹿に返事をする。
その時だ。
突然鹿が飛び上がり、小生の前から去って行ったので
何だ、野犬でも現れたか?
などと思っていると、少し距離のあいた所から、ギュッギュッと、雪を踏む音が聞こえる。
小生はこの足音の速度に覚えがあったので、すぐに人と解った。
人が冬にこの山を登るとは、珍しい事もあるものだ。
小生は、ゆっくりと近づいて来る足音を静かに待った。
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