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控室に戻った俺達は、いそいそと帰る準備を始めた。
先輩から打ち上げに誘われたが、皆で祝う程の成果なんか残せてない俺達は、バイトだと適当に嘘をついて断った。
事務所の定期ライブが終わると、しばらくちゃんとした仕事はない。
同期の芸人たちの前ではスケジュールの確認はしたくない。
すぐ横では中のいい同期がマネージャーと話しているが、明日は大切なネタ番組だから絶対に遅刻しないようにと念をおされていた。
本当は、こいつらが先を歩いていくのが悔しくてたまらない。
でも、
このまま聞こえないフリを続けたら負けな気がして、心の中で、言うべき言葉を整理する。
負け惜しみに聞こえないか、自分でよく確認して、カウントダウンを開始。
3…
2…
1…
0っ!
『何々ー?沢井たちはテレビかあ?いいよなあー、俺らなんか毎日営業だっつの!』
120%の苦笑いで話しかけると、かえってきたのは満面の笑み。
『まあな!でも本当たまにだぜ?ほとんどは俺らも営業。な?幸助!』
『だよなー憲太。売れてぇなあ…ってまだ芸歴三年じゃ短ぇだろ。』
着替えを終えて横から沢井の相方の倉澤が入ってきた。
こいつらは、下の名前で呼び合う程の仲良しコンビだし、俺らより断然ネタも面白い。
絶対に俺らよりも先に売れてしまうだろうとわかっている。
けど、
わかってるからこそ負けたくないし、自分の中だけでは誰よりも負けたくない相手だ。
なのに、下手にでる事しか出来ない俺。
『本当、大変な世界だよなあ…』
いつのまにか会話に参加してた望月が呟いた言葉に、まわりにいた芸人たちはウンウンと頷いた。
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