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私は今かられっきとした不審者になろうとしている。包丁を持ち歩きながら廊下を歩いてもいくら元気な中学生だって挨拶をしてくれるわけがない。そう、私は今から人を殺そうとしているのだ。警察なら怖くない。あいつさえ殺せればどうなっても構わない。そんな気持ちだった。
あれは先月のことだった。
「どうしたのよ。こんな時間に呼び出して。」
そのときは丁度10時だった。真夏だったのでむしむしした空気が辺りを包み込んでいた。
「美穂。俺と別れてくれ…」
彼が最初に発した言葉だった。
一瞬何を言っているのかが理解できなかった。コオロギの鳴き声がやけにうるさく感じた。
「しょ、章ちゃん?冗談だよね?」
私は半分笑いながら必死に否定を求めた。
「ごめん。」
たったそれだけだった。たったそれだけを言うと章ちゃんは静かに背中を向けた。それからは一切連絡が途絶えた。
理由が分からなかった。どうして?そう、聞けばよかったのに。夢にも思わない出来事に唖然としていた自分に腹が立つ。自分を嫌いにさせたなにかがあるのだろうか?
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