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僕は元来、許したひと以外にべたべたとまとわりつかれたり触られたりするのが大きらいだ。馬鹿みたいに騒ぐ奴らもきらい。
冷め切っているといわれるけれど、きらいなものは仕方ない。
なのに、なんで今、僕は桐山と歩いているんだろう。
無理矢理掴まれた手を引っ張られて前に進む。地味に力が強くて振り払えない。やかましく道案内をされるうち、豪華なホテルのような建物が見えてきた。
「ほら、あれが寮だよ。大きいでしょう」
「金の無駄だね」
「……うん、まあそうだね」
反応が王道じゃなーい、とぼやくのが聞こえたけれど、そんなこと僕には関係ない。
王道主人公になってやる気もないし、なれやしないし、それにあれくらいなら見慣れているし。
桐山がむくれながら僕を引っ張っていく。
「寮監さんのところ、行こう!」
「……はあ」
何かイベントがあるはず! と鼻息を荒くするのもいいけども。僕のことも多少は考えてほしいね。
「あ、勘違いはしないでほしいんだけどね。ボク、キミが本当に"王道"だったら、近寄りはしなかったよ」
「へえ。そっちの方が楽しかったと思うけど。どうして?」
「だって、王道主人公に近寄ったら面倒なことに巻き込まれるだろ? そんなのはごめんだからね。キミは、王道っぽいのにずれていて面白いし、むやみやたらに近づこうとしてこないから楽だろうし」
「ふうん。結構ちゃんとひとのことを見てるんだね。萌が欲しいだけのうざい馬鹿かと思った」
「あー、ひどいなあ。よくある毒舌ってやつ? もう! 可愛いなあ!」
「もうなんか、……いいや」
存外しっかりした考えをしているじゃないかと思ったけれど、撤回しよう。やっぱりただの馬鹿だ。
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