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「キミも、やっぱり理事長の甥なんだね。じゃあ、……鷹司なの?」
「うん。木下は母の姓で、僕は本当は鷹司拓真だよ」
「はあ……あの鷹司の後継か。何かあるだろうなとは思ってたけど、すごいね。道理でここじゃなきゃいけないわけだ」
鷹司グループ。この名前を知らないひとはあんまりいないと思う。
ゲームやカメラ、衣服なんかの日常品から、石油に温泉、何でもあり。むやみやたらに大きくて、バカみたいに金持ちで、有り得ないほどに権力を持っている。
僕はそこの正式な後継者だ。実はもう会社を動かしてはいるけれど、ほとんど明かしていない。社長が年下の学生なんて我慢ならないひともいるだろうし。
まあ、そんな大きいところだから、お金を狙って命やら何やら狙われたりもする。ここならセキュリティも完璧、安心で安全だ。
「だから念のため名前変えてるんだね。鷹司の後継、顔はまったく知られていないから」
「うん。けど桐山はなんでわかったの」
「ふっふーん。ボクをあんまり舐めないでよ。鷹司の後継者がタメだってことくらい知ってるさ! ……ねえ、亡くなった鷹司拓哉さんは、キミのお父さんだろ? すぐにわかったよ」
ああ。その名前をここで聞くなんて思ってもみなかった。心がざわざわうるさい。お願いだから静まってくれ。
「そう、だよ」
「そっか。あー……ごめん、ちょっと踏み込みすぎちゃった。ねえ、ご飯にしよう。歓迎のためにボクが作るからさ!」
僕の表情が固まったのに気付いたのか、話がするりと変わる。こういう気遣いはうれしい。
よくも悪くも、憎めないやつなのだろう。桐山は。
その後は意外に手際よく夕食を完成させた彼に驚き、存外おいしかったハンバーグに舌鼓を打った。
でもまだ僕の方が上手い。
「明日は僕が作るよ」
「わあ! 王道ってめちゃめちゃ料理上手か壊滅的に下手かだからね! 楽しみにしてるよ」
「……やっぱり腐男子受けで襲われたらいいよ、君」
僕がこう言ってしまったのは、仕方がないと思う。やたらめったらうざったい。
それでも、なんだか久しぶりに楽しかった。
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