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諸手に馴染むは業物の感触。穂先を下げた早突きの構えに、怨十郎は八双で向かう。有象無象を端に散らし、再び双獣が向かい立った。
丹蔵か鬼か、将又余人か。誰方の喉が唾を咽下し、殺劇が幕を開ける。
機先を得るは、長槍の穂先。薄傷を負うた怨十郎の肩を更に抉り込むが如く、下弦を描くが、跳ねた先を太刀が弾く。丹蔵の腕は弾かれるままに小円を走り、帰り来る切ツ先で怨十郎の腕を薙ぐ。立てた太刀が槍を防ぎ逆袈裟に返し刃を放つも、丹蔵の連突きが後の先を奪った。相放たれた刃金と刃金とが剛力で以て磨り合い散りて、刀鍔を捉えた槍の穂先が怨十郎の指先を掠める。刺突の威勢は鬼を幾寸ながらも退かせ逐った。
「戯れの先に天稟極まれり、とは! この己もいたく見下げ果てられたものよ!」
鬼の顔には見紛う事なき歓喜と狂気。握る大太刀は次先を逃さぬ。再び螺旋を前に飛ばして丹蔵の面を削らんと迫る。風巻く切ツ先は槍の穂先を寄せず弾き、柄ごと斬り飛ばす勢いで廻る。然して丹蔵は柄を傾げ、来る死出の嵐へ添える。刃が柄に噛み付く一瞬に、石突きが地を跳ね目貫飾りが斬撃を挫いた。
「雑作も無いわ、下郎めが」
凪いだ嵐の只中に、怨十郎は死に体を晒すが、払刀の妙技の為に極短く槍を構えた丹蔵は必殺の刺突を繰り出すこと能わず、足捌きで半身を替えつつ水平の薙ぎを放つ。宙に残る鬼の体は寄せた太刀が護るが擦れ違い様に肩の傷を重ねた。此度は深く、確かな疵。薙ぎに逆らうが如く振り向く怨十郎は、右の脚にて勁く踏み込み大上段より正中を裂く。丹蔵は足回りを正しつつ半歩引くと共に槍を太刀に咬ませ、降り下ろして大地に縫い付けた。弓手は柄に添えたまま二つ三つと活歩を重ね、得物ごと捕らわれた鬼の胸先を、取り出したる砕けた短刀で突き刺した。鈍き感触と跳ねる血飛沫。肋を割られた鬼は然れど太刀を放さぬまま圧し飛ばされ、口唇を朱に染める。
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