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§00 プロローグ
黒みが強い茶色の髪が風に揺れた。
深い緑色のジャケットや腰に提げられた二つのハンターナイフ入りのホルスターが動く度に揺れるが、黒いズボンに包まれた長い脚は構わず動き続ける。
青年か、少年か、曖昧な顔付きの男性。
しかし、スラッとした体型にスッと引き締まった顎と高過ぎない鼻、整えられた眉と切れ長な瞳という整った顔立ちに周りの人々は目を奪われる。
彼は人で賑わう町中を無言で通り抜けると、目に留まった宿に足を運んだ。
「いらっしゃい」
酒場が付属した宿のカウンターに立ち、亭主の決まり文句を受けながら少年はあらかじめ用意されてあるペンを手に取り、名簿に名を記す。
“ラウド=イグレン”──。
ラウドという名の少年はチェックインだけを済ませると、再び宿の外に出た。
その茶色掛かったオーカーの双眼で人込みをまるで睨むかのように見つめる。
すると、道の向かい側から人の流れを水平に割りながら、こちらにやってくる女性に気が付いた。
ラウドはゆっくりと視線を外し、女性の事を無視して歩み出した。
「……馬鹿な女が、また一人」
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