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「警官殺しか」
木崎は腕を組み、山本が遺体の内ポケットから取り出した警察手帳を開く。確かに、警察手帳の中には、笹野清という名前が書かれていた。
所属は、生活安全課。なぜ渋谷署の刑事が歌舞伎町で死んでいるのか。知る人は居ない。強いていうなら犯人が知っているのかもしれないが、もちろん、犯人はわからない。必然的に、何かを知る者も居ないということになる。
「警官ならば、誰でも良かったのでしょうか」
長谷川は、状況と情報を自分の警察手帳に書きながら、木崎に聞いた。
「わからん。場所柄、警官に恨みがある人間は山ほど居るが、ここの連中も馬鹿じゃない。ハジキを使うってことはそれなりのリスクがあるのは判ってるからな。第一、制服でもない警官を、警官と判る人間は少ないだろう」
「ましてや、新宿署の人間じゃないしな」
「てことは、笹野巡査長が狙われたということですか」
「その可能性もある。警官なんてどこで恨みを買うかわからん」
木崎は笹野巡査長の警察手帳を鑑識に渡し、白手を外した手をコートのポケットに突っ込んだ。
「俺達も危ないぞ、明日は我が身だ。覚えとけよ長谷川」
山本は長谷川の肩をポンと叩く。捜査一課とはいえ、恨みを抱かれる理由はいくらでもある。逮捕した犯人の家族、殺された被害者の家族。悪を相手に闘う警察が、怒りの矛先となってしまうことも、悲しいかな現代の実情だった。
山本は遺体のある路地から少し出た、雑居ビルが並ぶ道に出る。うさんくさい店が軒を連ねる通りは、それだけでどこか犯罪の香りがするようだった。
「この辺は、人通りはどうなんだ」
山本は、側に立っていた制服警官に聞いた。
「夜2時、3時までは騒がしいですね。その後はカラオケかマンガ喫茶に入っちゃいますから」
厚い黒のコートを羽織った制服警官は、貫禄のある顔で柔らかい笑顔を浮かべながら答えた。
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