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11/23
AM 07:32
新宿、歌舞伎町
太陽が登り、日本一の歓楽街と呼ばれるこの街にも、新しい朝が来た。頭を抱えて、雑居ビルから這い出るように帰宅の途につく華やかな女性。そこら中にまき散らされた誰のものとも知れない嘔吐物。
夜は歓楽街、朝は通勤ラッシュ、長谷川は改めてこの場所が眠らない街と言われる由縁が、わかった気がした。
何台ものパトカーが連なって停車している光景も、この街で暮らす人間にとっては珍しいものではないのだろう。野次馬が集まるでもなく、マスコミの記者とカメラが大挙して、規制線に押し寄せている。
この街には、良くも悪くも様々な欲望を抱えた大勢の人間が集まる。それは、仕事帰りのサラリーマンであったり、不良外国人であったり、資金集めに必死な暴力団であったりする。東京入管と警視庁による浄化作戦が行われた現在でも、様々な手を使って、欲望を、そして野心を叶えようとする人間は絶えない。
そんな人間たちが集まるこの場所で、警察官が珍しい存在ではないのだ。それは制服警官、私服警官に問わず、欲望が渦巻く場所には必ず警察官の姿がある。
ただ、その警官が訪れた理由が、今回は恐喝や暴行ではなく、殺人であっただけ、長谷川はそう思っていた。
新宿歌舞伎町という有名な看板のあるアーケードの隣、路地を一本まるごと規制した上で、そのまた小さな路地に警察官たちは集まっていた。長谷川はその路地の前で、白手をはめながら、鑑識が写真を撮っていく様をじっと見つめていた。
「よく起きれたな、お前」
規制線をくぐり、長谷川に近づいてきた男、山本巡査部長は、こめかみをおさえ、眉間にしわを作りながらそう言った。
「ええ、まぁ」
長谷川はそう答え、自分のスーツの内ポケットから白手を取り出して山本に渡した。
「結局何時まで呑んでたんだ。何にも覚えてなくてな」
「3時くらいじゃないですかね」
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