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山本はそんな冗談を言いながら、遺体の顔を覗き込んだ。
「巡査部長も警部と飲んだ時に、倒れられたんですか」
「俺は頭が良いからな。呑んで20分で寝たふりしたんだよ」
「それがバレて、その後は地獄だったっけな」
木崎に突っ込まれながらも、山本は遺体のスーツの内ポケットを漁る。
「それから警部と呑むと、そのたびにそれを引き合いに出されるんだ」
木崎がその傷をさらにえぐり、後輩には知られたくないような情報が木崎の口から出る。
「警部補、もうそれくらいでいいじゃないですか」
「いや、警部とお前の笑い話なんて山ほどあるんだ。それを肴に半日は飲めるぞ」
木崎が立ち上がると、長谷川よりも若い刑事が警察手帳を片手に近づいてきた。その刑事は、木崎と長谷川にあいさつをし、被害者の情報を読み上げる。
「害者の名前は、笹野清、48歳。8月24日生まれ、出身は長野です」
その報告に、木崎は少し怪訝そうな顔をした。
「よくこの時間でここまで調べたな」
「照会にでもかけたんじゃないですか」
山本の言葉に、若い刑事は「その通りです」とため息をつく。
「前があるのか」
「いえ、そういうわけではありません」
「じゃあ、何なんだ」
若い刑事はまたため息をつき、警察手帳を一枚めくる。
「害者は、渋谷署、生活安全課所属の巡査長です。たまたま知り合いの警官が居まして、照会をかけました」
言い終わると同時に、山本が内ポケットから黒い手帳のようなものを取り出した。若い刑事が開いているのと同じものだった。
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