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六時頃に夕食が運ばれてきた。白いプラスチックの皿に盛られている野菜炒めは、普段食べているものに比べると質素と言わざるを得ないのだけれど、それでも空きっ腹には申し分ない味で、問題はむしろ量の方だった。
(やっぱ、足りないよなぁ)
すっかり空っぽになった皿を、ため息を吐いて見つめる。一度目覚めた食欲は、簡単に治まってくれそうになかった。
腹の音が鳴りそうなのを抑えていると、コンコンと扉がノックされた。
「はい」
また看護師の問診か何かかと思って、早口で気の抜けた返事をする。まだ、傷口に力を入れないで発声できる方法を把握できていなかった。
「レイ君……」
その人は、半分開いた扉から顔だけを覗かせ、俺と目が合うなり音もなく部屋に入ってきた。
「何ともないみたいで良かったです。凪央さん」
垂れ目がちな瞳に、大粒の涙をためこんで、一歩動いた拍子にそのすべてが流れ落ちた。
今回のことがあって以来、初めて他人の涙を目の当たりにした。いい気分にならないのは当たり前だけれど、その中にほんの少しだけ、ほんのりと温かい感情があった。
――ああ、この人はこんなにも俺のことを想ってくれているんだなぁ――
そう思うことが、できたからだ。
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