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飯を食っていても、食後に慶次たちと駄弁っていても、俺の中には一人の人間が、物悲しい景色とセットで常に回っていた。
ふと気が付くと、俺は二人が話しているのも聞き流していて、ここからは見えない中庭の方向へと、首が向いていた。
くそ、ホントに何なんだよ! 一体!
金曜日も経験した。苛立ちに酷似したこの感情を……俺は鮮明に覚えている。
……あいつ、まさか今日はいないだろうな。
確かめるだけだ。一人の女のせいで俺が悩むなんて、馬鹿らしすぎる。
「レイ? どこ行くんだ?」
立ち上がった俺に、嘉樹の声がかかる。
「ちょっと……な」
曖昧な返事に、嘉樹は「ふーん」と呟いただけで、何も言わなかった。
俺は、二人に「じゃあな」と残して、すぐにその場から動いた。
歩きながらも、頭からちらついて離れない。あの女の子の、彼女の今にも壊れてしまいそうな表情が。
見つめていたいから? 違う。そんなはずはない。確かめるだけだ。
馬鹿みたいに自分に言い聞かせながら、俺は早足で中庭へと向かう。
中庭が近づくにつれて、人の数は少なくなる。
そして、校舎の門を曲がると……。
当たり前だけど、やっぱりそこは、昨日と変わらない景色。
冬枯れの、悲しい木々たちが並んでいた。
中庭に入る俺を拒もうとしているかのように、ひときわ強い風が吹く。そんなものには、負けない。俺は、木々の出迎えを潜り、さらに風の吹く中庭へと足を踏み入れた。
……何で、何で居るんだよ。
そこに、昨日と同じ絵を俺は見た。
一枚の、儚い絵。ベンチの上で本を読んでいる彼女は、やっぱり綺麗だった。
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