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バスケのコートの端から端までくらいの距離だけど、見間違うはずがない。あれは、間違いなく金曜日に居たあの女の子だ。
足が、自然に彼女の方へと向かっていく。
説明のつかない感情が、それを後押ししているようだった。
「……あ」
彼女までの距離が数メートルに迫った所で、本から上がった顔が俺を見つけたようだ。吐息のように小さい声がこぼれた。
「お前、また居るのかよ」
風が弱くなった瞬間を見計らい、彼女に声をかけた。彼女は、少し怯えた風に身を竦ませて、視線を本に向けた。まるで本に助けを求めるみたいに。
「ごめん、なさい」
申し訳なさそうに、彼女は謝罪の言葉を口にした。金曜日の時と、まるっきり同じイントネーションで。
何で……お前が謝るんだ。何でお前の声は、そんなに悲しそうなんだ。何で……。
複数のもやもやが、心の中を旋回する。それは全て、目の前の彼女が発信源のもので……。
……認めよう。俺は今、確かに目の前の女の子に、心を惹かれていた。
彼女の、悲しげで儚い魅力に。
理由はよくわからない。なぜだか、彼女が持つ雪の結晶の一粒のような儚さが、有無を言わさず俺の心を捉えて放さないのだ。
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