Fall in winter

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「あの人、日高、凪央さん、だっけ?」 「うん」 「日高さん、とても申し訳なさそうにしてた。本当はね、責めたかったの。あなたのせいでって、言いたかった。でも、あんな顔されちゃ、ね」  困ったように、小さく笑った。俺は、何も言葉をかけてやれない。 「とにかく今は、レイが起きてくれてホッとしてる」  それだけよ、と息を吐くように呟いて、また笑った。 「あ、私、もうすぐバイトだから……」 「ん、わかった」 「ごめんね、バタバタしちゃって。また明日、レイの好きなもの持ってくるから」  カバンを手にした姉ちゃんが、ブーツを鳴らして扉へと向かう。小さな背中に、声をかけずにはいられなかった。 「姉ちゃん!」  思いがけず、声が大きくなってしまう。お腹に力が入ると、それだけで痛みが走った。 「何?」  こっちを振り向かないまま、扉に手を掛けて立ち止まった。 「ごめん、心配かけて」  もっと、気の利いた言葉を使いたかった。感謝の気持ちは今にも溢れそうなのに、どうしてそれを上手く声にだせないんだろう。そのことが、たまらなく歯痒かった。 「――ホントよ。バカ」  素っ気なく言い放った姉ちゃんは、ついに俺の方を見ることなく室外に消えてしまった。  だけど、去り際に姉ちゃんは、目元を小さく拭っていた。
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