冬の少女

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 俺は、今見えている光景が、にわかに信じられなかった。  こんな場所に、俺以外の奴が居たなんて……という驚きもあるのだけれど、それ以上に……俺には、その光景があまりにも幻想的だったからだ。  それはまるで、よくできた絵の様だった。  ベンチに一人佇む女の子。その後ろの枯れた木々、さらにその彼方に広がる曇天……全てが、額に納まった一枚の絵を連想させた。  俺は、知らず知らずのうちに足を進めていた。  出口ではなく、その少し横に逸れた、女の子の元へと……。  ここは、寂れた中庭。取り立てて目立つような物もない。その上に、今はどんな歌人も悲観しか詠みそうにない、重苦しい天気だ。  彼女は、そんな殺風景を、芸術に昇華したんだ。  大げさな表現なんだろう。だけど、少なくとも今の俺は、心からそう思うことが出来た。    知りたい……。好奇心とも探求心ともつかないこの感情を引き連れ、俺は彼女の方へとゆっくり歩み寄る。  彼女は本を読んでいるようだった。 「……!」  思わず、立ち止まってしまう。  声が出そうだった。『綺麗……』と。  遠目からは分からなかったけど、近くから見る、本を読む彼女の少し俯いた表情は、周りの風景なんていらない。それだけで、一個の作品のようだった。  物憂げな、それでいて一つの世界に集中している表情は、他の何にも形容できない。ただただ、美しかった。  ふと、風で落ち葉が舞う。その拍子に、彼女が表情を上げた。  そして、俺の視線が……初めて彼女と視線が重なる。
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