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……やっぱりだ。
顔を上げた目の前の少女は、雪の結晶を思わせるくらいに綺麗だった。
切れ長の、クールな印象を与える目に、野原一面の新雪のように白い肌。寒さのせいだろう。今はそれが、まるで林檎のように紅く色付いていた。
栗色に近いショートカットは、風に絶え間なくなびき、真っ白な首元があらわになっている。
彼女のどこか力ない瞳は、いつまでも俺を捉えている。だけどそれは、俺も同じで、このままだと、彼女の黒目に映る俺が見えそうだった。
この子の目に、俺はどういう風に映っているんだろう。ただの男子生徒? それとも不審な奴?
何にせよ、俺は知りたい。彼女を……知りたい。
一度火の付いた気持ちは、止められない。
「何……してるんだよ?」
そこから続く言葉なんて、考えてられなかった。思考より、気持ちが先走ってしまった。
俺の第一声は、風に流されずに彼女へと届いただろうか?
「……」
少し間が空き、やがて彼女は手にしている本へと視線を戻した。 彼女は、手袋も何もしていなかった。
俺の方も、何だか少し居心地が悪くなってしまい、小さくベンチの隅に目を移す。ピンクの巾着袋が置いてあった。彼女の弁当箱だろうか。
「……本を」
風が、声を運んできたのかと思った。
あまりにさりげなく、静かに聞こえた小さな呟きは、この子が放ったもの?
俺は真っ直ぐに彼女を見やった。彼女は、ひび割れそうな瞳で俺を見つめていた。
「……本を、読んでいたの」
蚊の泣くような声が、確かに聞こえた。
ピューピューと、高く唸る風に掻き消えることなく、俺の耳へと。
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