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その声は、彼女自身の持つ儚い雰囲気に、悲しいくらい似通っていた。
脆いガラス細工のような彼女の声は、ひとたび強い風が吹けば、今度こそ掻き消えてしまいそうなくらいに、小さく、か細いものだった。
「なんで、こんな所で読んでるんだ?」
あえて、俺は普段の話す声よりボリュームを上げて問い掛けた。
「……」
彼女は視線を俺から外して、そこからはだんまりを決め込んでしまう。俺は、さらに少しだけ彼女に近付く。
「風邪、引くんじゃないのか?」
今度は、出来るだけ口調を柔らかくするよう意識してみる。声量は、彼女に届くように大きく。
「……ごめん、なさい」
読めなかった表情が、申し訳なさそうなものに変わった。わずかに歪んだその表情にも、なんだか惹き付けられてしまいそうで、俺は見下ろしていた顔を、空を睨むように上に向けた。
「俺に謝っても仕方ないだろ。お前の体調なんて、俺の知ったことじゃないし」
少し言い過ぎたか……と思い視線だけ彼女に戻すと、さっきと変わらない、申し訳のなさそうな顔がまだ張り付いていた。
「……ごめんなさい」
もう一度、彼女は謝ってきた。
なぜだか、胸の端が、チクリと痛む。
くそ、何なんだよ、一体!
謝った彼女にでも、謝らせてしまった自分自身にでもなく、俺は苛立ちを覚えてしまう。ぶつけようのない、始末の悪い苛立ちだった。
「とにかく、早めに戻れよ。もう昼休みも終わっちまうぞ」
それだけ言い残して、俺は足早にその場を後にした。
ビューッと、北風が吹く。服の上からも身体に染み渡るくらいに、冷たかった。
彼女の方に振り向きたい衝動を何とかこらえ、俺は自販機へ向かった。
両手に冷たいパックを抱えて中庭を通る頃には、彼女の姿は無かった。
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