第1章 生き残った少女

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カノンは全身が泥だらけなのも気にせず、かつては賑やかだった町跡を虚空の瞳で見ていた。 燃えるものがなくなり、炎はすでに鎮まっている。 カノンはゆっくりと歩いた。 あそこはパン屋。とてもパンが美味しかった。 あそこは老夫婦が住んでたところ。カノンに優しくしてくれた。 あそこは友達の家。幼い頃からずっと一緒にいた親友。融通きかないけど、明るくてまっすぐで、大好きだった。 あそこは自分の家。父と母は仲がよく、まだ幼い弟妹がいて、祖父母もいて、賑やかな家だった。 あそこは。あそこは…。 知らない人はいない小さな町が一夜にして壊滅した。 王都から離れた平和な町だったのに。 くだらない戦争に巻き込まれて。 自分が町を離れたときに。 生き残ったのは、1人。 わたしは…独り。 足の力が抜け、その場に座した。 喉が張りさけそうなほど、大声で泣いた。
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