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カノンは全身が泥だらけなのも気にせず、かつては賑やかだった町跡を虚空の瞳で見ていた。
燃えるものがなくなり、炎はすでに鎮まっている。
カノンはゆっくりと歩いた。
あそこはパン屋。とてもパンが美味しかった。
あそこは老夫婦が住んでたところ。カノンに優しくしてくれた。
あそこは友達の家。幼い頃からずっと一緒にいた親友。融通きかないけど、明るくてまっすぐで、大好きだった。
あそこは自分の家。父と母は仲がよく、まだ幼い弟妹がいて、祖父母もいて、賑やかな家だった。
あそこは。あそこは…。
知らない人はいない小さな町が一夜にして壊滅した。
王都から離れた平和な町だったのに。
くだらない戦争に巻き込まれて。
自分が町を離れたときに。
生き残ったのは、1人。
わたしは…独り。
足の力が抜け、その場に座した。
喉が張りさけそうなほど、大声で泣いた。
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